【読書メモ】史上最強の哲学入門

哲学というと難解なイメージが有り、長い間あまりその意味を見いだせないでいたが、抽象的な視点から物事の本質を捉えるための参考になるのではと思い、最近、哲学の本を読んでいる。といっても、本格的なものではなく、比較的易しめの入門書だが。最近、「史上最強の哲学入門」という本を読んだが非常に面白かったので紹介したい。

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

 

 本書の特徴は、数々の哲学者をグラップラー刃牙の登場人物よろしく、論を戦わせている体で紹介していることである。しかし、グラップラー刃牙成分はそれほどないように思うので、グラップラー刃牙の知らない自分でも楽しめた。

内容は、おそらく高校の倫理ぐらいのものだと思うが、ほぼ理系科目しか履修してこなかった自分には非常に新鮮だった。例えば、ソクラテスプラトンアリストテレスの流れはなんとなく知っていたものの、ソクラテスから始まり、ソクラテスの弟子のプラトンイデア論(いうならば理想世界)を目指したものの、プラトンの弟子のアリストテレスイデア論を否定し現在の学問の礎を築いたというような、流れが非常に面白く、かつ明解に書かれてある。

わかり易さの理由はやはり、刃牙を意識しているからだろう。一般的に、教科書は事実の羅列でしか書かれておらず、極めて退屈なものになりがちであるが、こちらの書は比喩が多く、論が論を倒すという、いわゆるバトル漫画チックな展開で書かれているので大変面白く読むことができた。

ちなみに、 本書で紹介している論の中で特に気に入ったのは、ソシュール記号論の話である。ソシュール以前の言語学では、言語のルーツや変遷などを調べる、いわゆる考古学に近い内容であったらしい。しかし、近代言語学の祖であるソシュールはそう考えずにいた。

ソシュール以前は、「りんご」という言語は、赤い果物を表すためのラベルであると素朴に考えられていた。しかし、ソシュールは「言語とは差異のシステム」であると区別したのだ。すなわち、りんごを他のものと区別する必要があるから、「りんご」という名前がつけられたということになる。これは、言葉と人間の認識・価値観が密接に関わっていることを意味している。実際、区別する価値観、文化がなければ名前はつけられない。例えばフランス語のパピヨンは、蝶と蛾の両方を表しており、これは区別する必要性が無かったからであると本書では述べている。

ソシュール記号学以外にも、ニーチェハイデガーサルトルなど、様々な哲学者の論を、平易な言葉と比喩で説明しており、これらに少しでも興味があるならおすすめの書であるといえる。逆に、哲学をかじったことがある人にとっては、易しすぎるかもしれない。