【読書メモ】FUTURE INTELLIGENCE 〜これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣〜

FUTURE  INTELLIGENCEという本を読んだので紹介したい。本書のタイトルはよくある自己啓発本のように陳腐なタイトルだと思っていたが、原題は“Wired to Create: Unraveling the Mysteries of the Creative Mind”となっており、クリエイティブ思考の謎を解き明かすというような意味となる。実際、本書の内容もHow to本ではなく、クリエイティブ思考な人のあり方について解き明かしたもので、本書を読めばクリエイティブ思考が直ぐに身につくというものでもなさそうだった。

FUTURE INTELLIGENCE ~これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣~

FUTURE INTELLIGENCE ~これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣~

  • 作者: スコット・バリー・カウフマン,キャロリン・グレゴワール,野中香方子
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2018/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Think different.

本書の内容を一言で表すなら、Think differentだと思う。Think differentは1997年にApple Computer(今のApple)が広告で使っていたスローガンである。つまるところ、人と違うように思考しろということであるが、クリエイティブ思考な人は、人と異なる思考を行っているということが本書を読めばよく分かる。

例えば、本書では、以下のような事例を紹介してる。

誉れ高い「ネイチャー」誌は、磁気共鳴映像法(MRI)技術を初めて詳述した画期的な論文の掲載を「拒否」した。それから30年後の2003年になってようやく、MRI技術を開発した物理学者ポール・ラウターバーはノーベル医学賞を獲得した。今日では、年間数千万人がMRI検査を受けている11。ラウターバーは後にこう回顧した。「わたしがMRIの技術を完成させた後も、多くの人は、そんなことはできるはずがない、と言っていた。

このように、クリエイティブ思考な人は、失敗を恐れず、異端となり、そこで結果を残している。しかし、多くの人にとって異端になるというのはリスクが大きく、異端であっても成功するとは限らない。ジョブズが転生してもう一度生まれ変わったとしても、同じように大成功するとは限らないだろう。この点については後ほど考察する。

また、クリエイティブ思考な人の先天的な特徴について興味深い解説があったので紹介したい。クリエイティブ思考な人は、既存のルールにとらわれずに様々な可能性を考慮する事ができる。ある調査によると、クリエイティブな人は、視床におけるドーパミンD2受容体の密度が低いらしい。ドーパミンD2受容体の密度が低いと、脳に入ってくる情報を視床で選別せずに、多くの情報を視床からその他の部位へ伝達するらしい。結果、多くの可能性を考慮できるそうだ。

一方、ドーパミンD2受容体の密度が低い症状は、統合失調症患者にもみられる症状であり、ドーパミンD2受容体の密度が低いほうが良いとは必ずしも限らないように思える。統合失調症患者は、多くの情報を脳が受け取ってしまい、現実と空想の区別がつかなくなってしまう。なお、統合失調症患者が血縁にいると、クリエイティブな仕事に付く可能性が高まるそうだ。天才と精神病は紙一重なのかもしれない。

知識量と創造性の関係

本書で解説していた面白い知見として、知識量と創造性は逆U字曲線を描くというものがある。

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人がある分野において最も創造性が高まるのは、その分野の知識量が最大になる少し前だそうだ。つまり、多少の知識は必要だが、多すぎる知識は情報の取捨選択を無意識に行ってしまうため、think different出来ないのだろう。

ときどき、研究論文をサーベイしすぎるなと言われたり、サーベイは必要だと言われたり、全く逆の事を言われることがあるが、知識量と創造性の関係から見ると、これらはどちらも真である事がわかる。知識量が足りないときには、やはりサーベイは必要で、かといって知識量を増やしすぎてもいけないのだ。

バックトラッキングは無駄か?

基本的に、研究などの創造的活動とは探索活動であると考えることが出来る。多くの可能性を試行した結果、良い可能性を発見するのが創造的活動である。探索アルゴリズムの方法として、バックトラッキングという方法がある。バックトラッキングでは、探索に失敗したら、元の位置まで戻って戻って探索を再開するが、では、創造的活動・研究で、このバックトラッキングは無駄と言えるのだろうか?

選択と集中では、バックトラッキングを無駄と捉えて、バックトラッキング無しの探索を行おうとしており、それを行うには、事前に探索結果を知っている必要があるが、これは矛盾をはらんでいると言える。未来を見通す力があれば、誰も苦労しない。しかし、他人と違うことを行っても必ずしも結果が出るとは限らないだろう。創造的な結果が出ているならば他人と違う、というように、他人と違う事は創造的な結果が出るための必要条件であるが、十分条件ではない。したがって、ジョブズが転生しても、かならず創造的な結果が出せるとは言えないと思われる。ちなみに、この条件式の対偶を取ると、他人と同じならば、創造的な結果は出ないとなる。

また、研究を探索活動と捉えた場合、新規性とは研究の基礎を成す要素であることが分かる。探索活動によって、人類の知見を増やす活動が研究であり、研究の価値であるとすると、先行事例と同じ探索を行うのではなく、新規性を求めなければならないのだろうと感じた。