【読書メモ】Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ

現代日本では、小・中学校は義務教育であるため学習を行ったことのないという人はほぼ居ないだろう。学習するということはつまり、数学や国語などについての知識や技術などを習得するということである。では、学習方法について学習したことのある人は、どの程度居るだろうか?

私達は、小・中学校、高校、そして大学、会社などで様々なことを学ぶが、より効率的な学習方法についてはほとんど知らないのではないだろうか。「Learn Better」は、そのタイトルの通り、よりよく学ぶための様々な方法について解説した書籍である。

Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ

Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ

 

誤った学習方法

本書では、いくつもの陥りがちな誤った方法についてを紹介している。例えば、以下のような方法は、非常に効率の悪い方法であると本書では述べている。

  1. 外国語で歴史や文学を数学を教えたりする
  2. 漠然とした願望を立てる

外国語で歴史や文学や数学を教えると、脳の短期記憶を使い果たしてしまい、どちらも身につかないし、『うまくなりたい』などの漠然とした願望を立ててもだめである。しかしながら、私達はしばしばこのような方法を取りがちである。

学習するためには脳の短期記憶を利用することが重要である。しかしながら、外国語で教えると、外国語と、教える対象、両方の短期記憶が必要なため、短期記憶の容量がオーバーしてしまう。私達しばしば、短期記憶の容量を過大評価してしまいがちである。

また、『うまくなりたい』というような漠然とした目標も学習のためにはならない。学習するためには、例えば、毎日○時間取り組むなどといった、達成しやすいベンチマークが重要だと述べている。そうすることで、自己効力感、自分は達成できるはずだという感覚を得られ本当の『うまくなりたい』という目標を達成することが出来る。

本書では、このような学習についての陥りがちな誤った例を多くあげ、よりよい方法についても解説している。そのどれもが面白い内容であった。例えば他には、教科書にマーカーを塗るのは学習に意味はない、TEDトークは学習するのに益よりも害のほうが大きいと述べている。もしその理由についても興味があれば本書を手にとってほしい。

教師の役割

本書では、学習時において教師、教師の必要性も説いている。まず初学者が陥りがちなのは、何を勉強すべきかがわからないということであると言う。その道の専門家であれば、何から学ぶかを示すことが出来るが、学習を始めたばかりの入門者がそれがわからないため、それらを示すことの出来る教師が重要であるそうだ。

また、フィードバックも教師の重要な役割だ。学習時において、何を向上させるべきかは学習者自身ではわかりづらい。教師は、学習者に適切にフィードバックする役割を担う。特に、教師と学習者のマンツーマンレッスンは非常に効果的であると述べている。

最近、情報通信技術やインターネット、ウェブの発達により情報取得が非常に容易になった。そのため、大学などはもう必要のないとの言説が聞かれるようになった。たしかに、情報という観点からだけ見ると、すでに情報はウェブ上にあふれているため、大学は必要ないかもしれない。実際、自分自身も大学などはもう必要ないかもしれないと考えたときもあった。しかし、本書を読むと、どうも、教師の役割は知識を授けるということではなく、学習のサポートを行うために存在するようで、まだ大学は必要であるのかもしれない。しかし、英語学習などでは、学習用アプリケーションがフィードバックを行ってくれるため、習得方法が体系化されているものについては、話が変わってくるかもしれないとも感じた。

 

臨界期説

臨界期という考え方がある。ある程度の年齢を重ねると、物事を学習することができなくなるという考え方である。プログラマ35歳限界説などが臨界期説の一つと言えるだろう。しかし、本書では臨界期説は否定されている。

例えば、伊能忠敬は50歳のときに、19最年下の当時31歳であった高橋至時に弟子入りし、天体観測や測量の勉強を行ったとされる。また、葛飾北斎が波を書き始めたのは30代の頃で、富嶽三十六景・神奈川沖浪裏として完成したのが北斎が72歳の頃であるそうだ。

年齢を理由に学ぶことをやめてしまっている人が多くいるが、学習する能力は失われていないのに辞めてしまうのは、それは大変もったいないことなのだろう。

千変万化に描く北斎の冨嶽三十六景 (アートセレクション)

千変万化に描く北斎の冨嶽三十六景 (アートセレクション)

学習は人間の基本的欲求

人間は考える葦であるとはパスカルの言葉である。人は、新しいものの探求を行うと快感を与えるドーパミンが放出され快感を覚える。つまり、学習は、食事、睡眠、セックスと同じ欲求であると本書は述べている。強制されて行う勉強は退屈すぎるが、新しいことを学ぶのは楽しいのだ。本書は学習について知る上で大変おすすめなのでぜひ読んでほしい一冊である。