【読書メモ】最後の資本主義
ロバート・B・ライシュというとクリントン政権時代の労働長官であり、現在はカリフォルニア大学バークレー校 ゴールドマン公共政策大学院の教授である。
- 作者: ロバート・B.ライシュ,Robert B. Reich,雨宮寛,今井章子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2016/12/02
- メディア: 単行本
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ルールを決める裕福層
本書はトランプ政権誕生前に書かれた経済書であるが、その内容はトランプ政権誕生を示唆している物となっている。よく、小さな政府(自由市場主義)か大きな政府かの対立があるが、本書はそのような二元論ではなく、今の市場ルールが誰の手によって決められているかを明確にすべきと述べている。
従来、アメリカの政治は2大政党制として民主党と共和党が台頭している。大雑把に分けると、民主党が労働者のための政党であり、共和党がウォール街や石油産業などのいわゆる資本家と呼ばれる層の政党である。しかし、最近ではウォール街や巨大産業のマネーが民主党にも入り込み、労働者のための政党はどこにもなくなってしまったのが少し前のアメリカであった。つまり、一部の裕福層がルールを彼らを利するように変えてきてしまっていると指摘している。本書の大部分は裕福層がどのようにしてルールを変えてきたかを説明している。
処罰されないウォール街の面々
2008年9月15日、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが、資産6,910億ドル以上とそれをはるかに上回る負債を抱えて経営破綻した。これを契機に世界規模の金融危機が起こったのがリーマン・ショックと言われる金融危機である。リーマン・ブラザーズは、財務的に弱い体質であることを意図的に隠蔽しており、裁判所が指名した検査官は、これを「注意深く仕組まれた詐欺である」と詳述したが、リーマンの役員経験者で刑事訴追された者はいない。
当時、明らかに犯罪に見えるような行為であっても、大きすぎて潰せないとして、逆に資金投入されて救済されていくのは傍目に見ても大変奇妙な光景であったのを覚えている。このリーマン・ショックは本書で述べられているほんの一例で、このような例は枚挙に暇がない。あからさまに恣意的な采配や不公正が横行したために、多くの人が市場や政府に不信感を持ち、経済ゲームはいかさまだと思うようになった。
いかさまゲーム
自分がいかさまなゲームの犠牲になっていると感じる人々は、全体に損をさせることによってシステムを打倒しようと考える場合が多いそうだ。本書では、次のようなゲームを説明している。
- 二人の学生がいて、1,000ドルを二人で分配することにする。
- 一人の学生は1,000ドルの取り分、つまり二人での分配方法を決める。
- もう一方の学生は、2. で決めた分配で良いか決める。ただし、事前に分配方法は知らされない。
- 3. でOKが出たら2. で決めた分配方法で分配し、NGであれば1,000ドルは没収され二人に分配されない。
このようなゲームを設定した場合、2がいかさまして、より多く取り分を取ると考えてしまうと、3. の学生はNGを出すことが多いそうだ。OKを出せば自分にも多少は取り分があるはずなのにである。
これはトランプ政権の誕生理由を思わされるような結果ではないだろうか。実のところ、誰もトランプには期待しておらず、いかさまゲームを打破しようとしているだけかもしれない。それに、今の経済は信用を基に成り立っているのに、その前提である信用が崩れ落ちれば、資本主義経済など成立するはずもない。
反ウォール街とバーニー・サンダース議員
しかし、ここ最近ではまたその風向きも変わってきているようだ。バーニー・サンダース議員といえば、民主社会主義者を自称する政治家であり、労働者側の政治家であると言える。そのサンダース議員周辺の動きが最近活発になってきているので、次のアメリカ大統領選挙では、前回とは違った様相を示すかもしれない。しかし、サンダース議員もだいぶ高齢なのでどうなるかはわからないが。