【読書メモ】RE:THINK: 答えは過去にある

過去のアイデアを再考する

新しいアイデアを生み出すことが技術や社会に革新をもたらすと私達は思うかもしれない。しかし、多くの場合、新規アイデアや新製品などは、過去に誰かが考案したものである。「RE:THINK: 答えは過去にある」ではそのような事実を指摘し、新規性も重要だが過去のアイデアを再考することも同様に重要であるとの気づきを与えてくれる。

ルネサンス期の新規性

古代ローマで哲学や科学や大きく進歩して、13世紀頃から16世紀頃にかけて、古代ローマの哲学や科学がヨーロッパに再輸入された。その頃の、最新科学と言えば古代ローマの知識のことであった。まさに、いにしえのファイナルファンタジーや、∀ガンダムの世界である。

ルネサンス時代、重力を発見した科学者がいた。かの有名なニュートンである。当時の先端科学と言えば、古代ローマ人の考えた知識のことであり、それこそが権威であったため、ニュートンは重力を自分の発見とするのではなく、古代ローマから考えられていたと嘘の説明しようとしていた。実際には、その説明はプリンキピアには載らなかったが、載せようといしていたそうだ。ニュートンは新たに発見を行ったが、昔は、過去のアイデアこそ最も考察すべき対象であった。

デモクリトス古代ローマの哲学者であり、原子論を提唱した人物でもある。しかしその原子論はデモクリトスの提唱後約2000年間も忘れ去られ、19世紀初頭になってようやくイギリスの科学者ドルトンが再び提唱し、20世紀頃に科学的に観測された。実は、この例のようなことが非常に多くある。

例えば、電子タバコや電気自動車などは、一度は失敗し頓挫したアイデアであるが、再考され広まったアイデアである。その他にも、ベーシックインカム、麻薬や覚醒剤の医療目的利用などなど、いろいろな物がある。アイデアは実は過去に様々考案されているが、それが重要かどうかは、その当時の社会規範、技術的限界、権力者などに依存して決定してしまう。新規性というのは、実は、過去にこそあるのかもしれない。

ここで、個人的に、本書の中でも特に面白かった民主主義について紹介しよう。

民主主義とは何なのか

現在の政治は、議会民主主義に則り代表者を選挙で選出して代表者が統治を行うものである。しかし、政府は裕福な利権団体の犬であり、専門職と化した政治家には2世、3世の議員が多く、自分たちの権力を永続化させることにしか興味がない。しかも、2〜4年周期で行われる選挙では、地球温暖化少子化といった長期にわたる政策はとれない。民主主義はすでに死んでいるのだ。実は、このような見解は、100年以上も前の19世紀頃から暗に陽に指摘されていたらしい。

ここで、古代アテネの考える民主主義についてみてみよう。古代アテネ(加えて大半のヨーロッパの時代)では、選挙は極めて貴族的な官僚選出方法だと考えられていた。貴族制とは即ち、人民なかで最良の人物に統治させることであり、選挙で最良の人物を選ぶことは貴族制に他ならなかった。

古代アテネでは主要な4つの都市のうち3つで、くじ引きによるランダムな選出を行って統治者を選んでいた。ランダムに複数人選べば、平均的には、人民の総意が政治に反映されると言えるのではないだろうか。そもそも、現代の議会民主主義は、貴族制なので再考すべきではないだろうか。

かなり過激な案ではあるが、民主主義というものをよく考えるためには面白い考えであると思う。この案ならば、大統領が暴走したり、ウォール街が利権を貪ったりはしないかもしれない。真実はわからないが、このように、過去には再考すべきアイデアが多く眠っている。温故知新である。

本書では、このように多くの過去のアイデアについて述べられており、なかなか楽しく読めた。他にも優生学については考えさせるところもあったので、また後日紹介したい。

炎と怒り トランプ政権の内幕 (早川書房)

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