【読書メモ】ビット・プレイヤーを読んだ感想

グレッグ・イーガン「ビット・プレイヤー」を読んだ。グレッグ・イーガンはSFの巨匠らしく、いろいろなジャンルのSFを書いているらしい。最近、ちまちまと短編SFを読んでいるが、本作はシンギュラリティを超えたストーリーの作品が多かった。シンギュラリティを超えるというのはつまり、ソフトウェアに意識が芽生えたり、人類の精神をデータに変換して物質に復元したり、恒星間航行が可能になるということである。本書の感想は、全体ではイマイチに感じたが、最後の「孤児惑星」は面白かったというの正直なところである。

有人での恒星間航行を行う際にはいくつかの方法がある。

ワープはスターウォーズシリーズなどで用いられる方法であるが、やや安直すぎる。ワープ(超高速航行)を実現する方法として、アルクビエレ・ドライブという方法が知られている。アルクビエレ・ドライブを簡単に説明すると、宇宙船の後方にビッグバンを発生させ、前方にビッグクランチを発生させ時空をゆがませて進む方法である。ビッグバンやビッグクランチを継続的に発生させるって何回宇宙創造するつもりだよとは思う。しかし、よく考えてみると、実は、我々の居る宇宙というのは、高次の存在者がアルクビエレ・ドライブで発生させた宇宙、つまりワープ中の燃えかすという可能性も出てくる。

精神のデータ化は本作で頻繁に出てくる。しかし、精神がデータ化できてしまうと、死やら個人のアイデンティティーやらそういうものが崩壊しているのではという気になる。死んだとしてもバックアップはあるし無茶も出来る。精神のデータ化やバックアップが出来る作品はままあるが、比較的多くの作品で、1人格は同時刻に唯一の物理的存在しか登場しないことがままある。本作品でも比較的容易にバックアップが稼働できるという描写があるが、バックアップ出来るならクローンを作れば良いのにと思いながら読んでいた。空の境界蒼崎橙子も同じく同時に稼働は出来ないが、こちらは魂は1つとかいう理屈づけがされていたように思う。しかし、精神のデータ化はまだまだ出来そうに無いなとは思う。精神をデータにするには、個人的には脳だけではなく、数億か数兆かわからないが、いわゆる5感と言われるセンサ類もデータ化する必要があるのでは無いかと思っている。脳が精神なのでは無くて、精神はペリフェラルも含めた分散アーキテクチャになっているのではないだろうか。

箱船はいわゆるシドニアの騎士方式で、なかなか現実的だと思う。箱庭を実現するためにはいくつか超えなければならない課題がある。1つめは生物の循環系をクローズドな環境で再現できるかという課題である。実は、これについては過去にアメリカで、バイオスフィアと呼ばれる研究施設が設立されて研究されいたが、この研究は見事に失敗している。最近ではイーロン・マスクが火星移民をうたっているが、少なくとも、まずは地球上で人工閉鎖生態系を完成させなければならないだろう。2つめは宇宙空間における巨大建造物である。箱船に、はじめに最低1000人規模の人間が乗り込むとしても、数百年の航行(もっとか?)と人口増加を見据えて、1万人は収容可能な規模がほしい。ガンダムのコロニーは数億から数十億人規模を収容可能だそうだが、あれだけの巨大建造物を作る技術は我々人類にはまだ無い。しかも、これだけの巨大建造物を作成しても、たかだか数十億人しか収容できないため、増えすぎた人類が宇宙に移民したところで、すぐに人口問題が噴出するのは火を見るより明らかである。ただ、箱船は超科学的な発展が無くとも、エンジニアリング的な試行錯誤を重ねていけば到達可能には思える。

コールドスリープは亀や金魚とかなら可能だろうが、人類で行うのは現状では厳しいそうだ。コールドスリープはあまり詳しくないので、詳細は適当なサイトを見てほしい。

ビット・プレイヤーはカジュアルに超技術が出てくるため、色々と思いを巡らせて読んでいた。しかし、恒星間航行や精神のデータ化はさすがにしばらくは実現しないだろうと思う。個人的な予測では、まず宇宙か月あたりに金持ち向けのホテルが出来るのでは無いかと思っている。と思ったら、構想中であった。

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短期滞在なら可能な事は既に実証済みだし、これぐらいは出来るだろうが、凄いなあ。