【読書メモ】廃園の天使IとIIを読んだ

早川書房のセールがKidleストアでやっていたため、Amazonの欲しいものリストに入れたままずっと買っていなかった、『グラン・ヴァカンス 廃園の天使 Ⅰ』と『ラギッド・ガール 廃園の天使 Ⅱ』を買って読んでみた。ずっと欲しいものリストに入っていたため、何故入れたのかは覚えていない。何故だろうか。初めに感想だけ言うと、グラン・ヴァカンスはSFと言うよりも文学作品っぽくてあまり面白さは分からなかったが、ラギッド・ガールはこれでもかと言うほどにSFをしていて非常に楽しめた。グラン・ヴァカンスは読むのに1ヶ月かかったが、ラギッド・ガールは2日で読み終えてしまった。しかし、グラン・ヴァカンスの内容があるからこそ、ラギッド・ガールの面白さがあると思うので、読む場合は両方読んで欲しい。

良質なSF作品は科学の皮を被った哲学作品である事が多く、ラギッド・ガールは意識と生命に関する哲学を主題としている。最近はAIの流行から、人工生命の人権なども語られるようになってきており、人工知能がシンギュラリティを超えるとの言説も多くなっている。ラギッド・ガールもそれらの例に漏れずに人工知能や人工生命の意識、人権を主題としてはいるのだけれど、それらとひと味違うのは、シンギュラリティをどうやって超えたかの説明を科学的な理由づけで説明しているからである。多くのSF作品では、人工知能や人工生命はどうやって生み出されたかという説明は無しに、とりあえず可能になったという前提で話が進む。しかし、それらはAI全盛の昨今ではどうしても似たり寄ったりの説明になってしまうが、本作では技術的な壁とその解決策が空想ではあるが科学的に解説されていて大変面白かった。

人間のシミュレーション

人間の意識を生み出す最も自明な方法は、人間の細胞の一つ一つの動きをすべてシミュレーションすることである。しかし、これには以下のURLにあるように、計算量の問題が出てくる。

Teleportation: will it ever be a possibility? | Technology | The Guardian

この記事によると、人間は約32兆個の原子から成り立っており、それを表すためには2.6 \times 10^{42}ビット=\frac{2.6 \times 10^{42}}{8}バイトの情報量となるらしい。2^{10} = 1024バイトが1KiB、2^{20} = 1024KiBが1MiB、2^{30} = 1024MiBが1GiB、2^{40} = 1024GiBが1TiBである。ということは、人間の原子を丸々シミュレーションするためには、272848410531878471374511718750TiBもの情報量を扱わなければならない。

スパーコンピュータ富嶽の性能は公称415.53PFLOPSなので、秒間415.53 \times 10^{15}回の浮動小数点演算を行える。1回の計算で8バイトのデータに対しての計算を行えると仮定すると、\frac{2.6 \times 10^{42}}{8 \times 8 \times 415.53 \times 10^{15}} \approx 90246191610714027868024\approx 2859729244641988年あれば、人間シミュレーションの1ステップ分を行える計算になる。

意識や人間のシミュレーションを行うには、この計算量の壁をどう乗り越えるかが重要になる。ちなみに、漫画GANTZでは人体の転送を行っているが、あのレーザーの転送速度は異次元の速度であり、エネルギー消費量も異次元である。肉体転送レーザーの技術に比べると、GANTZから与えられる武器はおもちゃ以下の性能しか無いと言って良いだろう。転送レーザーに使っているエネルギーを転用すれば、すべての問題が解決すると思われる。

話がそれたが、意識のシミュレーションは現状では本当に難しく、おそらく量子コンピュータで作られたコンピュータが一般的になるレベルにまで科学技術が進展してようやく先が見えるかどうかぐらいだと思う。そのような状況になるのがいつかは分からないが、その時にどうやって解決するかは、ラギッド・ガールを読むことで妄想することができ、大変面白かった。続編も執筆中らしいので期待したい。