年収750万円で幸福度頭打ち説についての考察

年収750万円で幸福度が頭打ちになるという説がある。これは、ファスト&スローの下巻、37章「経験する自己」の幸福感、で説明されている文章が元になっていると予想している。当該箇所を引用すると以下のように記載されている。

もうそれ以上は幸福感を味わえないという所得の閾値は、物価の高い地域では、年間世帯所得ベースで約七万五〇〇〇ドルだった。この閾値を超えると、所得に伴う幸福感の増え方は、平均してなんとゼロになる。所得が多ければ多いほど、好きなところへ旅行に行けるしオペラも見られるなど多くの楽しみを買えるうえ、生活環境も改善できることはまちがいないのだから、これはじつに驚くべき結果と言える。

つまり、このツイート画像では、7万5千ドルを750万円と換算しているのだろう。その換算レートが正しいかどうかはおいておいて、幸福度にはあるていど、頭打ちがあるように見て取れる。

幸福度の測り方

では、そもそも、幸福とは一体何なのだろうか。U指数という考え方がある。U指数とは、不快な状態で過ごす時間が全体に占める割合のことであり、U指数が少ないほど幸福であると考えることができる。U指数以外にも、もっと複数の段階に幸福度を区切って調査する方法もある。

このような調査方法から考えると、たしかに、ある程度の所得があれば幸福度は頭打ちしそうではある。

幸福とは何か

たしかに、U指数のようなもので幸福度を測ることが出来るような気もする。しかし、そもそも、幸福度とはU指数で表せるものなのだろうか。この点について、「幸福はなぜ哲学の問題になるのか」という書籍で議論されている。大変おすすめなのでぜひ読んでほしい。

幸福はなぜ哲学の問題になるのか (homo viator)

幸福はなぜ哲学の問題になるのか (homo viator)

 

以下、この本の説明の一部を拝借して、年収750万円説を考察してみよう。

上昇と充足

ある聡明な男がいたとする。その男は、ある日事故で脳に障害を負って幼児レベルまで知能が退行してしまった。しかし、その後は、周りの人に支えられ幸福に生きたとする。さて、私達はこの男のことを幸福だと考えるだろうか。

U指数のような指標で測ると、この男は幸福極まりないということになる。しかし、私達は普通この男のことを幸福であるとは考えないだろう。その理由は、上昇と充足という観点から説明できる。

上昇とは、地位の向上や、知識の獲得、所得の向上が幸福であると見なすことであり、充足とは現状に満足することこそが幸福であるとすることである。上昇という視点から充足を見ると、充足は現状に甘えており、人間が成長する機会を捨て去っていると批判できる。一方、充足という視点から上昇を見ると、上昇はどこまでいってもきりがなく永遠に幸福にはなれないと批判できる。

つまり、事故にあってしまった聡明な男は、主観的には充足しているかもしれないが、人間として成長する機会を失ってしまってしまっており、その意味では不幸であると捉えることも出来る。年収750万円説も同じであり、ある程度まで行くと、U指数のような値は頭打ちするかもしれないが、上昇という点から見ると際限がないと考えることも出来る。

幸せについて考える時は、上昇にとりつかれた人は幸せなのだろうかという点も考えなければならないし、人間が成長を諦めるのは幸せなのかという点も考えなければならないのだろう。

お金がないのは不幸

書籍「幸福はなぜ哲学の問題になるのか」では、お金が無いと不幸になる確率は高いと述べている。これを定式化すると以下のようになる。

¬ お金がある ⇒ ¬ 幸福

これの対偶を取ると、以下のようになる。

幸福 ⇒ お金がある

つまり、幸福な人ならば、ある程度お金を持っているということになる。しかし、私達はしばしば、以下のように考えてしまう。

お金がある ⇒ 幸福

これは正しくない。お金があっても不幸である人はいるだろう。愛する人を失って、大量の保険金が手に入った人は幸福だろうかということである。お金と幸福の関係性を誤認してはいけない。

面白い学術読み物、自分用まとめ

自分用メモ。多すぎるので全部は網羅していない上に分類は適当。あとで読む。

 

anond.hatelabo.jp

物理

ファインマンの有名な書籍。ファインマン物理学も挙がっていたが、あれは読み物じゃなくて教科書なので割愛。

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)

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ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)

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もしも月がなかったら―ありえたかもしれない地球への10の旅

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宇宙の量子論 (地人選書)

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エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する

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隠れていた宇宙 上 (ハヤカワ文庫 NF)

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隠れていた宇宙 下 (ハヤカワ文庫 NF)

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冷蔵庫と宇宙―エントロピーから見た科学の地平

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量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)

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光速より速い光 ~アインシュタインに挑む若き科学者の物語

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磁力と重力の発見〈1〉古代・中世

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磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり

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磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス

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数学

100年の難問はなぜ解けたのかはポアンカレ予想を解いたペレルマンに関する本なんだけど、面白いのでおすすめ。理論宇宙の話とかもある。

100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (新潮文庫)

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カオス―新しい科学をつくる (新潮文庫)

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複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)

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虚数の情緒―中学生からの全方位独学法

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零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)

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分ける・詰め込む・塗り分ける―読んで身につく数学的思考法

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ケプラー予想: 四百年の難問が解けるまで (新潮文庫―Science&History Collection)

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生物

 ファーブル昆虫記、分量が多すぎてきつい。

ファーブル昆虫記 10冊セット (岩波文庫)

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文明を変えた植物たち コロンブスが遺した種子 (NHKブックス)

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ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

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 利己的な遺伝子は中学ぐらいのときに読んだ記憶があるなあ。

利己的な遺伝子 40周年記念版

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捕食者なき世界 (文春文庫)

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猫の大虐殺 (岩波現代文庫)

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野尻湖のぞう (福音館の科学シリーズ)

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眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

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恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた (文春文庫)

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生と死の自然史―進化を統べる酸素

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文庫 生命40億年全史 上 (草思社文庫)

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文庫 生命40億年全史 下 (草思社文庫)

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生命 最初の30億年―地球に刻まれた進化の足跡

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進化論裁判―モンキー・ビジネス (ナチュラル・ヒストリー選書)

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ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

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文明はなぜ崩壊するのか

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生命のからくり (講談社現代新書)

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光る生物の話 (朝日選書)

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 経済学・行動経済学

超予測力は人は未来を予測できるのかについて科学した本。大変おもしろい。

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亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫)

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負債論 貨幣と暴力の5000年

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ヤバい経済学 [増補改訂版]

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行動経済学はとりあえず、ファスト&スロー読んどけって感じ。面白いけれど長い。面白いけれど。

 

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

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21世紀の資本

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影響力の武器は第二版を読んだけれど、面白い。広告や政治などのやり口がわかる。

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

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医学・心理学

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砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

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人とミルクの1万年 (岩波ジュニア新書)

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「民族」で読み解く世界史

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神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡

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暴力の人類史 上

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暴力の人類史 下

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自由からの逃走 新版

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歴史はべき乗則で動くでは、なぜ地震予知がうまくいかないかを砂山実験で説明していて、その部分だけでも読む価値あり。地震予知は眉唾。

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

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人はなぜ異星人(エイリアン)を追い求めるのか―地球外生命体探索の50年

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新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

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アナル・アナリシス――お尻の穴から読む

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熊を殺すと雨が降る―失われゆく山の民俗 (ちくま文庫)

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黒死病―ペストの中世史 (INSIDE HISTORIES)

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キッチンの歴史: 料理道具が変えた人類の食文化

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化学

スプーンと元素周期表 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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毒性元素 謎の死を追う

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哲学・論理学

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

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これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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法学に遊ぶ (慈学社叢書)

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意識と本質―精神的東洋を索めて (岩波文庫)

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赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由

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マインズ・アイ

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ラカンはこう読め!

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哲学入門 (ちくま新書)

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 ソフィーの世界は中学頃に読んだけれど、全く理解できなかった。

 

コンピュータ科学

世界でもっとも強力な9のアルゴリズム

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暗号化 プライバシーを救った反乱者たち

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コンピュータは数学者になれるのかは面白いのだけれど、いかんせん難しい。しっかり読まないといけない。

 

インフォメーション―情報技術の人類史

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暗号解読はめちゃくちゃ面白い。このせいで一時期、暗号学者を目指した。しかし、やってみたら暗号解読の研究はめっちゃ退屈であった。いまは、ネットワークとサイバーセキュリティをやっているので遠からずという感じ。

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

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暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

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地学

スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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大気の海―なぜ風は吹き、生命が地球に満ちたのか

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言語学

言語を生みだす本能(上) (NHKブックス)

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  • 作者: スティーブンピンカー,Steven Pinker,椋田直子
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 1995/06/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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言語を生みだす本能(下) (NHKブックス)

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全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

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音楽

響きの科学―名曲の秘密から絶対音感まで (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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美術・デザイン

イコノロジー研究〈上〉 (ちくま学芸文庫)

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国宝神護寺三像とは何か (角川選書)

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誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

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科学一般

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた

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 SFで使われている技術が本当に実現可能化について、科学的に考察した本。近未来的な話もありめっちゃ面白い。

サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

 

 

リスク―神々への反逆

リスク―神々への反逆

 
マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-

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世界でもっとも美しい10の科学もなかなか面白かった。科学史がわかる感じ。

世界でもっとも美しい10の科学実験

世界でもっとも美しい10の科学実験

 

 

異貌の科学者 (丸善ライブラリー)

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アインシュタインの部屋―天才たちの奇妙な楽園〈上〉

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【読書メモ】アンダースタンディング コンピュテーション

チューリング・マシンとはイギリスの数学者チューリングが考案した計算モデルである。チューリングとは第二次世界大戦中にナチス・ドイツ軍の暗号Enigmaを解読した人物である。チューリングは当時、、今で言うコンピュータの原型となる機械を実装して、Enigmaの解読を行ったそうだ。チューリングの軌跡については、イミテーション・ゲームという映画で描かれており、内容もなかなかおもしろいのでおすすめである。 

計算モデルとRuby実装

計算モデルとは、その名の通り計算機の動きを数学的に表したものとなる。現在の計算機は、ノイマン型コンピュータと呼ばれていて、アメリカの数学者・物理学者のフォン・ノイマンが考案した構成をとっている。ノイマン型コンピュータは、コンピュータは、CPU、メモリなどの外部記憶装置、それらをつなぐバスによって構成されている。

本書は、ノイマン型コンピュータと言ったハードウェア的な話ではなく、どちらかというと、数学的なモデルにもとづいた理論の解説と実装を行っている。計算モデルには、オートマトン、プッシュダウン・オートマトンチューリング・マシンなどいくつかあるが、本書ではこれらを実際にRubyで実装して解説しているのが、他の書籍と一線を画する。

計算モデルについて考えることは、計算というものの本質をとらえるのに役に立つ。例えば、ある問題Xがあって、問題Xが計算機で解けるということはどういう事なのだろうか?これは、ある計算モデルで、その問題Xを解釈できるかということを考えてみると理解が深まる。たとえば、オートマトンよりも、非決定性プッシュダウン・オートマトンの方が扱える解ける問題が多く、非決定性プッシュダウン・オートマトンよりも、チューリング・マシンの方が扱える問題が多い。これを分類したものが、チョムスキー階層と呼ばれている。チョムスキー階層のことまで話すと長くなるので、詳細はWikipedia等を参考してほしい。

λ計算とChurch数

RubyPythonと言った、一般的なプログラミング言語は、チューリング完全であると言われる。チューリング完全とはすなわち、チューリング・マシンと計算能力が等価であると言うことを意味している。チューリング・マシンは計算モデルの一つであるが、チューリング・マシンと等価な計算モデルに、λ計算と呼ばれるものがある。

λ計算とは、1930年代にイギリスの数学者であるチャーチが考案した計算モデルであり、その計算能力はチューリング・マシンと等価であることが、チャーチ自身によって示されている。λ計算は、関数型プログラミング言語とよばれるHaskellやMLの基礎となっているモデルである。

λ計算BNF形式で表すと以下のようになる。

E := ID

     | (λ ID. E)

     | (E E)

ここで、IDはxやyなどの識別子のことである。つまり、

((λx. ((x x) x)) (λy. y))

のように書くのがλ計算である。たったこれだけの表記法ではあるが、計算能力がチューリング・マシンと等価である。しかし、これだけの規則では四則演算はおろか、数値すら表せないように思える。ところが、実際には、数値と四則演算をλ計算エンコードする事ができる。λ計算によって表された数をChurch数と呼ぶが、本書では、このChurch数を実際にRubyで実装している。Church数はなかなかに衒学的で理解が難しいが、こうしてRubyで実装して解説してくれるのは大変ありがたい。

また、さらに踏み込んだ内容として、停止性問題についても解説している。停止性問題とは、ある問題が計算できるとはどういうことかについて、停止性という観点から論ずるものである。停止性とは、ある問題を解くアルゴリズムがあったときに、そのアルゴリズムが最終的に停止するかどうかという事を示している。

計算の本質についてRuby実装を示しながら提示する本書は、大変エキサイティングでファンタスティックであった。難易度は若干高めだが、数学的な専門書よりは断然わかりやすいので、腕に覚えのあるプログラマは是非挑戦してみてほしい。最後に、本書の雰囲気を掴むために、本書で掲載されているFizzBuzzλ計算プラグラム一部を見てみよう。

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この見開きページだけを見ても、本書の凄さが伝わるだろう。美しい。

【読書メモ】独習 論理構造

 AならばBであり、かつBならばCであるならば、AならばCである。このように演繹的に推論は論理と呼ばれ、公理から出発して、いくつもの命題を導き出すことが出来る。この論理を形式的にとらえた学問が形式論理学であり、本書は論理学の入門書となる。

論理学の歴史は古く、プラトンアリストテレスの時代には論理学の基礎が出来つつあったそうだ。

独習コンピュータ科学基礎II 論理構造

独習コンピュータ科学基礎II 論理構造

 

命題論理から自動推論まで

本書は、命題論理で自然演繹法を学び、一階述語論理の形式的証明をまず学ぶ。しかしながら、高階述語論理や、ゲーデル不完全性定理などは触れてはいるものの、詳細には述べられていないので、これらが必要な人にとっては別の書籍が必要だろう。

さらに、形式的証明を学んだ後に、自動推論手法について学ぶ。自動推論とは、いわゆるProlog的な推論手法のことであり、命題を入力して、それが正しいかを論理的に検査することが出来るようになる方法である。たとえば、AはBの親であり、BはCの親である、としたとき、AはCの祖先であるか?という問いにコンピュータが答えてくれる。本書を習得すれば、Prologのエンジン部分は実装できるようになると思われる。

演繹的手法と発見的手法

論理をもとにした手法は、演繹的推論と呼ばれる。この演繹的手法は、人工知能の一分野とされており、第5世代コンピュータ時代の1980年代に活発に研究開発されたようである。

一方、現在の人工知能といえば、深層学習などの発見的推論が主流となっている。発見的手法は、推論するために必要な条件がすべて揃っていなくても、ある程度の精度で推論してくれるという利点がある。しかし、論理的に誤りであっても、推論してしまうという問題点もある。

人間が物事を推論する時、発見的手法と、演繹的手法、どちらもバランスよく利用しているため、現在の深層学習一辺倒の人工知能ではうまくいかないだろう。現在、発見的手法と演繹的手法を組み合わせた研究も行われているようなので、そちらに期待である。

演習問題と解答があり便利

本書は、章の終わりに演習問題があり、独学に向いている。演習問題の解答は、ウェブ上で取得できるので、解けない問題があったら、ちらっと答えを見てから解答を考えるということも出来る。論理学は一歩一歩積んでいけば、誰でも理解できるので、焦らずに頭から地道に問題を解いていくのが良いだろう。

誤字脱字が多い

残念ながら、本書は誤字脱字が多い。一応、本書のウェブ上にも正誤表はあるのだが、全く網羅はされていないようだった。

【読書メモ】FUTURE INTELLIGENCE 〜これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣〜

FUTURE  INTELLIGENCEという本を読んだので紹介したい。本書のタイトルはよくある自己啓発本のように陳腐なタイトルだと思っていたが、原題は“Wired to Create: Unraveling the Mysteries of the Creative Mind”となっており、クリエイティブ思考の謎を解き明かすというような意味となる。実際、本書の内容もHow to本ではなく、クリエイティブ思考な人のあり方について解き明かしたもので、本書を読めばクリエイティブ思考が直ぐに身につくというものでもなさそうだった。

FUTURE INTELLIGENCE ~これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣~

FUTURE INTELLIGENCE ~これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣~

  • 作者: スコット・バリー・カウフマン,キャロリン・グレゴワール,野中香方子
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2018/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Think different.

本書の内容を一言で表すなら、Think differentだと思う。Think differentは1997年にApple Computer(今のApple)が広告で使っていたスローガンである。つまるところ、人と違うように思考しろということであるが、クリエイティブ思考な人は、人と異なる思考を行っているということが本書を読めばよく分かる。

例えば、本書では、以下のような事例を紹介してる。

誉れ高い「ネイチャー」誌は、磁気共鳴映像法(MRI)技術を初めて詳述した画期的な論文の掲載を「拒否」した。それから30年後の2003年になってようやく、MRI技術を開発した物理学者ポール・ラウターバーはノーベル医学賞を獲得した。今日では、年間数千万人がMRI検査を受けている11。ラウターバーは後にこう回顧した。「わたしがMRIの技術を完成させた後も、多くの人は、そんなことはできるはずがない、と言っていた。

このように、クリエイティブ思考な人は、失敗を恐れず、異端となり、そこで結果を残している。しかし、多くの人にとって異端になるというのはリスクが大きく、異端であっても成功するとは限らない。ジョブズが転生してもう一度生まれ変わったとしても、同じように大成功するとは限らないだろう。この点については後ほど考察する。

また、クリエイティブ思考な人の先天的な特徴について興味深い解説があったので紹介したい。クリエイティブ思考な人は、既存のルールにとらわれずに様々な可能性を考慮する事ができる。ある調査によると、クリエイティブな人は、視床におけるドーパミンD2受容体の密度が低いらしい。ドーパミンD2受容体の密度が低いと、脳に入ってくる情報を視床で選別せずに、多くの情報を視床からその他の部位へ伝達するらしい。結果、多くの可能性を考慮できるそうだ。

一方、ドーパミンD2受容体の密度が低い症状は、統合失調症患者にもみられる症状であり、ドーパミンD2受容体の密度が低いほうが良いとは必ずしも限らないように思える。統合失調症患者は、多くの情報を脳が受け取ってしまい、現実と空想の区別がつかなくなってしまう。なお、統合失調症患者が血縁にいると、クリエイティブな仕事に付く可能性が高まるそうだ。天才と精神病は紙一重なのかもしれない。

知識量と創造性の関係

本書で解説していた面白い知見として、知識量と創造性は逆U字曲線を描くというものがある。

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人がある分野において最も創造性が高まるのは、その分野の知識量が最大になる少し前だそうだ。つまり、多少の知識は必要だが、多すぎる知識は情報の取捨選択を無意識に行ってしまうため、think different出来ないのだろう。

ときどき、研究論文をサーベイしすぎるなと言われたり、サーベイは必要だと言われたり、全く逆の事を言われることがあるが、知識量と創造性の関係から見ると、これらはどちらも真である事がわかる。知識量が足りないときには、やはりサーベイは必要で、かといって知識量を増やしすぎてもいけないのだ。

バックトラッキングは無駄か?

基本的に、研究などの創造的活動とは探索活動であると考えることが出来る。多くの可能性を試行した結果、良い可能性を発見するのが創造的活動である。探索アルゴリズムの方法として、バックトラッキングという方法がある。バックトラッキングでは、探索に失敗したら、元の位置まで戻って戻って探索を再開するが、では、創造的活動・研究で、このバックトラッキングは無駄と言えるのだろうか?

選択と集中では、バックトラッキングを無駄と捉えて、バックトラッキング無しの探索を行おうとしており、それを行うには、事前に探索結果を知っている必要があるが、これは矛盾をはらんでいると言える。未来を見通す力があれば、誰も苦労しない。しかし、他人と違うことを行っても必ずしも結果が出るとは限らないだろう。創造的な結果が出ているならば他人と違う、というように、他人と違う事は創造的な結果が出るための必要条件であるが、十分条件ではない。したがって、ジョブズが転生しても、かならず創造的な結果が出せるとは言えないと思われる。ちなみに、この条件式の対偶を取ると、他人と同じならば、創造的な結果は出ないとなる。

また、研究を探索活動と捉えた場合、新規性とは研究の基礎を成す要素であることが分かる。探索活動によって、人類の知見を増やす活動が研究であり、研究の価値であるとすると、先行事例と同じ探索を行うのではなく、新規性を求めなければならないのだろうと感じた。

【読書メモ】哲学がわかる 自由意志

本書は哲学の自由意志について述べたものとなる。平易に書かれているのだとは思うが、題材が題材だけに難しいと言わざるを得ない。しかし、自由意志と道徳、責任は密接に関わっており、物事の責任をどう捉えるべきかを考えさせられる本だった。

哲学がわかる 自由意志 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 自由意志 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

 

本書の裏表紙に書かれている文章が、本書の内容をよく説明しているので、引用してみよう。

意志の自由は道徳の大切な根拠だ。自由に選べるからこそ結果に責任が生じると私たちは考える。だが、現代科学は一見自由に見える私の選択も原因と結果の必然的な連鎖として説明し尽くせるという。困った、どう考えたらよい?

自由意志については、大きく分けて意思は因果的に決まるという説と、意思は自由に決まるという説から説明される。自由意志とは、私達は真に自由な意思を持っており、物事を自由に決める能力があるということで、因果的決定論とは、私達の意思は単なるアルゴリズムであり、行為はアルゴリズムによって因果論的に決まるという考えである。

これをまとめると以下のようになる。

  • 自由意志と因果的決定論は両立する → 両立可能説
  • 私達に自由意志はなく、因果的決定論的に行為が遂行される → 懐疑主義
  • 私達は自由であり、因果的決定論は偽である → 自由意志説
  • 私達に自由意志はなく、因果的決定論も偽である → 行為はランダムに遂行される

ランダムな意思決定と因果的決定論

私達が物事を決定する際にどのように行われるかを考えてみると、ランダムに決定するか、あるアルゴリズムによって決定するかによって決まるか、もしくはその中間の方法によって決定されるかであると思われる。自由意思とは、つまり物事を理性的な判断によって自由に選択できることであるが、ランダムに決定する場合は、そこに自由な意思はあるとは到底言えそうにない。

では、私達は理性に基づいて、合理的な判断の下に意思を決定しているとしよう。理性とはすなわち推論能力のことである。この推論能力によって合理的に行為が決定されるとしたら、合理的であればあるほど私達に行為の自由はないと言える。私達は、自由に物事を決定する能力があると思っているが、動物が欲望のまま餌に貪るのと同じように、脊髄反射と同じように、行為についての選択肢はなく、単なる合理的なアルゴリズム人間であり自由意志は無いのかもしれない。

ホッブズと両立可能説

17世紀の哲学者トマス・ホッブズは自由意思と因果的決定論は両立するとした。しかし、彼は私達の思い描くような自由とは異なる方法で自由を定義した。つまり、ホッブズの自由は、行為の選択するような自由ではなく、自由落下の自由のような意味で自由を定義しなおし、自由意志と因果論的決定論は両立するとしている。自由落下的なということは、すなわち、行為の遂行を妨げるときがないときに自由であるとしている。

たしかに、自由の定義を変えれば因果的決定論と両立するかもしれないが、これはいささか反則技に思える。論理学的に言うならば、前提条件が異なっていれば導かれる答えが異なるのは当然だからだ。

道徳責任とは何か

私達は、自由に行為の選択を行えるからこそ、その行為に責任があると考えている。では、私達の行為はアルゴリズム的に、因果的決定論的に決まり自由意志は無いとすると、道徳責任はどこにあるのだろうか。おそらく、道徳とは、推論能力を有している人間に、そこ行為が利己的か利他的かを判断することを強いており、その推論能力を行使して実施することにこそ責任があるとしているでは無いだろうか。つまり、「意思関数(状況)→行為」という流れだったのが、「意思関数(状況、道徳)→行為」とすべきとしているように思える。

因果的決定論か自由意志か

本書では、現代哲学で主流の因果的決定論ではなく、自由意志説の立場を取っている。決心自体を行為と捉え、決心に自由があり私達は自由意志の下に行為を遂行していると説明している。しかし、私の読解力不足で、その理由を正確に咀嚼することは難しかった。

これは私の考えだが、人間はフィードバック制御を行っており、行為の結果に基づいて行動指針を絶えず変化させていると考えられる。すなわち、私達は自己書き換えコードであり、動物と違う点は、その精度と取りうることのできる入力変数の数が圧倒的に多いという事のみであるように思われる。責任能力の有無は、推論能力の強さによって異なるのではないだろうか。しかし、こう考えると、私達に自由意志はなく懐疑主義になってしまう。私達は自由な行為者なのだろうか。

【読書メモ】哲学がわかる 因果性

因果性とは何かという問い

因果律はこの世を支配する根源的な法則である。「サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か」という本では、因果律を破ることは、不可能レベルIII、すなわち既知の物理法則に反するレベルの根源的な問題であるとしている。本書では、我々が思い描いている因果律とは何かについて哲学的な問いとして説明している。

哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

 

因果性とは連続した経験的なものでしかない(ヒュームによる因果性の説明)

ボールを蹴るとボールは飛んでいく。これはボールを蹴るという原因が、ボールが飛んで行くという結果を引き起こしたものである。このような因果性は、実のところ、私達がそう経験しているからこそ、その事実に因果性があると私達が認識しているだけである。これは、18世紀の哲学者ヒュームによる見解である。

たしかに、これは正しいように思える。わたしたちは、経験的に、ある事象が連続して起きるパターンを見た場合に、そこに因果性があるとみなしている。験を担ぐといった事はその最たる例であり、実際的な効果はさておき、私たちは、塩を盛ったり、試験前にカツを食べたりすることが結果に影響をおよぼすと考えている。

反事実条件

しかし、どうも、塩を盛ったり、試験前にカツを食べたりすることを原因とするのは怪しいように思える。例えば、ある雨男がいたとして、その人が参加したイベントは必ず雨が降ったとしよう。その雨男を雨の原因として良いのだろうか。ヒューム的な経験主義の立場からすると、その雨男は原因となるだろうが、どうにもそれを原因とするのは憚れるように思える。本当に、たかが一人の人間が、天候を左右するような力を有しているのだろうか。その雨男は、サハラ砂漠へ行けば神となるのではないか。

因果性のもう一つの特徴として、反事実条件的であるという特徴がある。反事実条件とは、原因が起きなかった場合は、結果は起きないとする条件である。これはすなわち、雨男がイベントに参加しない場合は雨が降らないと説明している。実際のところ、雨男がイベントに参加しなくても、やはりイベント時に雨が降るならば、それは雨男は反事実条件的に原因とはならないと考えられる。

ところが、反事実条件は、原因が複数ある場合には成り立たない可能性がある。AがCを引き起こし、BもまたCを引き起こす場合、Aが起きなくてもCは起きるのである。シュタインズゲートで例えると、何をしても、まゆしぃは死ぬのでありその死因は確かに死因ではあるのだが、反事実条件は満たしていないように思われる。このような事象があった場合、我々は、因果性というものについてどう考えればよいのだろうか。

シュタインズ・ゲート 椎名まゆり 浴衣Ver. 1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア
 

原因の先行性

因果性における重要な特徴として、原因が結果に対して必ず時間的に先行するという事がある。タキオンという理論上の物質がある。タキオンとは、虚数の質量を持ち、光速より速く動く物質である。タキオンを利用すれば相対性理論に反することなく、過去に情報を送ることができるかもしれないと言われてはいるものの、それは確かではない。しかも、ビッグバン以前ではタキオンが存在していたとの見解もあるが、その存在は実験的に確かめられていない。タキオンが確認できれば因果律も破られるかもしれないとは言われているが、それは定かではなく、観測は全くできそうにないのが現状である。

FATEシリーズでは、ランサーのクー・フーリンが因果逆転の宝具を用いており、結果が原因に先行する。エクスカリバーなどの高エネルギーの大量破壊兵器、時空間の移転、魂の物質化、平行世界の運営などはどれも物理法則に反するものではなく、人類が実現できないのは単にまだ技術レベルが低いだけであるが、因果逆転はそもそもの根源的な法則に反している。このような強力な力を持つクー・フーリンではあるが、その問題は、その強力すぎる力のために、成功率が低く、なかなか因果が逆転しないことにある。ゲイボルグが強するのがいけない。

顕在化

では、因果性とは単なる経験的なものではなく、より強い、われわれの常識的な捉え方として因果性を示すにはどうすればよいか。それに答える一つの方法に、顕在化という考え方がある。つまり、原因は、なにか結果を顕在化させるような能力を有している、または、結果となる対象が、そのような能力を有しているという考え方だ。例えば、石炭は燃えるという傾向を有していて、点火のような原因は石炭の有する能力を顕在化しているという具合だ。顕在化の考えによると、因果性とは、原因とは、ある対象物に変化を引き起こす刺激を与えて、その対象物はその変化を起こす能力を有しているということになる。

ところで、ある喫煙者が癌になったとしよう。喫煙が癌を誘発するのは知られている事実ではあるが、喫煙を癌の原因として良いだろうか。たしかに、喫煙は癌を誘発する可能性を高めるが、喫煙しなくても癌になっていた可能性もあり、反事実条件にも当てはめることが難しい。喫煙が癌を顕在化した、すなわち喫煙が癌の原因であると言ってもよいのだろうか。

ある事象を起こす確率を増やすような事象は蓋然性があるという。因果というと、何か物事が必然的に起きるような印象を私達は持っているが、では、このような蓋然的な事象はどう捉えればよいだろうか?蓋然性も因果性と言って差し支えないのだろうか?

因果性と相関

本書は因果性に関わる哲学書であるが、おそらく、相関とも密接に関わっているだろうと感じる。反事実条件は擬似相関についての何か重要な示唆を与えているように思える。正直、哲学がわかるといわれて読んでみたものの、読んでいるときはよくわからなかった。しかし、こうして文章にしてみると、多少なりはわかった気にもなる。実際のところ、理解したのは半分にも満たないだろうけれど。